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理工学部HOME > 学問のすゝめ > 村上春樹を読む

学問のすゝめ

村上春樹を読む

ディル ジョナサン (外国語・総合教育 専任講師)

はじめて村上春樹の小説に触れたのは、ニュージーランドで大学生だった時です。それ以降、村上の世界中での人気についてよく考えたことがあります。村上への西洋文化の影響(特にアメリカの小説や音楽)や、それを通して得たアクセシビリティについてはよく述べられています。でも村上の魅力はそれだけで説明できるでしょうか。ほかの日本人作家が同じように西洋文化を参照した場合、村上のように外国で成功できるでしょうか。村上の人気の秘密はいろいろあると思いますが一つの手がかりはアメリカの心理学者ウィリアム・ジェームズの執筆にあると思います。

作家ヘンリー・ジェームズの兄であるウィリアムは、古典作である『宗教的経験の諸相』の中で二つの典型的精神気質について述べました。一つは「健全な心」で、もう一つは「病める魂」です。簡単に説明すれば、健全な心は楽観的で生命力があり、一方、病める魂は苦しみの問題に敏感であるため、生き続けるためには生まれ変わる必要性を感じます。村上の続く人気の秘密は、彼の作品が、この二つの気質にうまく時代精神と一致する感覚で同時にアピールしているということにあるのではないでしょうか。

村上には様々なイメージがありますが、その一つは、都市小説作家としてのイメージです。主人公は料理をしたり、音楽を聴いたり、ありふれた日常の選択を個人もしくは消費者として楽しみます。こういう主人公は村上自身の世間でのイメージと重なる傾向もあります。村上は幸せに結婚して、子供がいない家庭で執筆、運動、音楽、食を楽しんでいます。これはジェームズの健全な心そのものです。評論家は彼の政治に無関心なところなどを強調しますが、逆に、自分で決めた生き方でシンプルなものを楽しむ村上の主人公に魅力を感じる読者は少なくないはずです。

村上のもう一つのイメージは、「難しい」作家であるというイメージです(文体は易しくても、テーマが難解であるという意味です)。村上作品は読者に完結を与えないことが多く、その表層的で無意味なゲーム感覚を強調し、批判する批評家もいます。しかし、それはジェームズの言う病める心の例としても見ることができます。村上の主人公たちは井戸の中に、また遠隔の島や原型的な森に旅し、そこで人類の偉大なテーマ、道徳、セックス、暴力、死、などと向き合います。ジェームスが説いた生まれ変わりの経験も現れます。つまり、村上小説は神話的な構造を備えながら、時代のポストモダン精神と適合するものであるのではないでしょうか。伝統的な神話を疑いつつも、何か深いものへの関わりを求めている今日の人々には魅力ある世界だと言えます。

これからも評論家の村上に対する意見は分かれたままであり続けると思います。それでも、村上の病める心の旅に出された健全な心を持つ主人公たちは、多くの読者を魅了し続けるに違いありません。


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