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理工学部HOME > 学問のすゝめ > 科学的興味の対象としての自分

学問のすゝめ

科学的興味の対象としての自分

地村 弘二 (生命情報学科 准教授)

「自分は何か」という問いは、人にとって究極の問題の一つだと思います。古代ギリシアでは、記憶や思考など、今日でいう「心」のしくみが重要であるとすでに考えられていたようです。しかし中世では、天文学、物理学、化学が発展して自然に対する理解が進んだ一方で、自分自身を経験科学的に理解する試みはあまりされなかったようです。

十九世紀の科学者ヴィルヘルム ヴントは、自分で自分の心を注意深く観察することにより、心のしくみを理解できると考えました。この「内観法」は、対象を観察によって理解しようとする点で経験科学的です。しかし、心には実体がなく、観察には適さないと批判されました。さらに、観察対象と観察者が分離されていないため、科学的方法として未熟です。

内観法の問題を解決するために、二十世紀前半の行動主義は、目に見える「行動」に観察の焦点を当てました。しかし、行動の背景にあるしくみを推定する方法がなく、内的な心の働きを理解するのは困難でした。二十世紀後半になると、内観法と行動主義の問題を解決する認知心理学が発展しました。認知心理学では、心の働きが「外界からの情報を処理する過程」であるという仮説を、行動を観察することによって検証しました。しかし、処理過程の実体を観察することはありませんでした。

一方で十九世紀後半には、人に特徴的な行動や心が、脳の損傷により損なわれることが知られていました。そして、脳の働きは領域によって異なると考えられていました。つまり、脳と行動の関係を調べれば、人の心を脳のしくみとして理解できる可能性があります。しかし、人の脳損傷は、事故や病気などの偶発的事象に依存するため、系統的に調べるのは容易ではありません。

現在私が従事している認知神経科学は「自分は何か」という疑問を科学的に解く枠組みになると思っています。私たちの研究室の典型的な手法では、ヒトの行動と脳活動を測定し、両者の関係を調べています。とりわけ私たちは、心理課題を行っているヒトの脳活動を、機能的核磁気共鳴画像法(MRI; 図1)を用いて測定しています。

機能的MRIは、ヒトの最も大きな臓器の一つである脳を傷つけることなく、全領域の活動を測定できます(図2)。この方法を用いれば、脳のどの領域が、どのような状況で、どのように活動しているのかを調べることができます(図3)。そして、心の働きを脳の情報処理として理解できる可能性があります。重要なことに、この科学的枠組みでは、心を実証的に理解するという点で、上に述べた先人たちが直面した問題を解決しています。

私たちの研究活動の日常では、仮説を立て、実験を計画する際に、ヴントのような内観的方法を用いることがあります。実験データを収集するときには、忍耐や体力が必要なこともあります。解析には注意深さと試行錯誤が要求されます。そして、結果が得られると、心理、生理、数理、機械的な説明を試みます。結果がまとまり、公表する際には、現代科学の形式に整える必要があります。

「人の脳と心のしくみを解明する」と聞くと、華やかな学問分野を想像するかもしれません。しかし私は、心のしくみを理解するためには、地道に考え続けることが重要だと思っています。そして、脳と心についての想像をめぐらせ、延々と考えることがこの分野の面白さだと思っています。ですから、私たちの研究室で最もファンダメンタルな活動は目に見えません。それでもなおこの分野がとりわけ魅力的だと思うのは、古代ギリシア時代から先人たちが不思議に思っていた「自分」に関する素朴な疑問を、現代科学の方法で実証的に解いていくことです。

今まで誰も見たことがない心理現象を目にしたときの驚きと興奮は例えようがありません。しかし「自分は何か」をわかったような気になるのはその一瞬だけで、次の瞬間には想像力をかきたてられ、また新たな疑問が生まれ、ますます脳と心に対する興味が増えます。そして、疑問を問い直し、考え続け、実証を積み重ねていくことにより、自分に対する科学的理解を深めていくことができるのだと思っています。

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