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理工学部HOME > 学問のすゝめ > ネガティブをポジティブにするマルチなメソドロジー

学問のすゝめ

ネガティブをポジティブにするマルチなメソドロジー

志澤 一之 (機械工学科 教授)

 不良品という言葉は人工物に対するネガティブイメージを連想させますが、我々の身の回りにある金属材料のほとんどは、内部に大量の微視的結晶欠陥を有しているため必然の不良品とでも呼ぶべき存在です。ところが、その欠陥をうまく利用してやると金属材料は思わぬ優れた特性を発現するようになります。これはネガティブな原因を除去するのではなく、それをポジティブに利用する逆転の発想の一つであると言えます。
 実在金属中には必ず結晶欠陥が存在し、それは点、線および面欠陥の3種類に分類されます。ここではその中でも特に線欠陥(転位)および面欠陥(粒界)に着目します。転位とは結晶格子の線状の乱れであり、き裂進展などのネガティブな原因の一つであると考えられており、十分少ない場合でも約109本/m2も存在します。これが外力を受けると最密原子面上を運動し、移動分が塑性変形(元に戻らない変形)として現れます。すなわち、転位が動き易ければ小さな力で変形できるので柔らかい材料であるとみなせます。通常の構造材料は多結晶体(微細な結晶粒の集合体)であるため、粒界という壁が多数存在し、それが転位をせき止める役割を果たします。したがって、多結晶体は単結晶より硬い材料ということになります。しかも、その壁の数(粒数)が増大して、いたるところで転位運動を阻害すれば同じ材料であっても硬くなって強度が上昇します。
 近年では環境親和性材料の創製に期待が寄せられていることはよく知られているとおりであり、鉄鋼材料を上回る強度を有する軽金属(Al やMgなど)が製造され、輸送機器の構造部材として利用できれば、莫大な燃費改善につながります。その実現を目指して、超強加工を軽金属に施すことで材料内に大量の転位を導入しつつ転位セル組織から超微細粒を創製しようとする試みが行われています。しかし、実験的方法のみでは諸パラメータの変化が材料特性に及ぼす影響やサブミクロンサイズの微視領域での諸量の分布状態などを瞬時に可視化することは難しく、材料設計には実験に代わって計算材料科学が威力を発揮します。本稿では,その中でも近年注目を集めているMultiscaleおよびMultiphysics解析について紹介します。Multiscale解析は、転位サイズの微視的現象と構造部材サイズの巨視的変形という異なる階層間の相互作用を再現する数値解析手法であり、一方、Multiphysics解析は転位パターニングや再結晶現象などの組織形成と結晶変形という異なる物理現象を表す異なる支配方程式を連成して解く手法のことを言います。以下には当研究室で実施したこれらの計算例をいくつか挙げておきます。まず図1はAlの超強加工によって発現した転位セル構造であり、セル内の方位差が発達して赤色の高密度転位壁が粒界に変化していく様子を表しています。次に図2は、超微細粒Alの粒径減少に伴う強度上昇の予測図であり、また図3は再結晶核が母相における転位の蓄積エネルギーを駆動力として粒成長し、Mg微細粒組織を形成していく過程を再現した結果です。これらの計算にはいずれも上述のマルチを冠するメソドロジーが駆使されています。
 ここでは、ネガティブな存在として従来認識されていた転位をポジティブに応用することによって材料の力学的特性を爆発的に向上させるアイディア、ならびにその材料特性予測シミュレーションのメソドロジーについて紹介しました。皆さんもネガティブなものを殲滅することのみに注力するのではなく、異なる視点から眺め直してみると、意外にポジティブに利用できることがあるかも知れません。本稿が皆さんの発想転換の一助になれば幸いです。

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