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学問のすゝめ

海は広いな大きいな

藪下 聡 (化学科 教授)

 化学は、実験・解析の試行錯誤の繰り返しによって大きく発展してきた学問です。しかし今や、化学のターゲットである化学反応・分子構造・物性のどれをとっても、原子核と電子の集合体である原子や分子がそれらの主役を演じていることは明白です。すると、化学の基本法則の一つである量子力学の創始者の一人、P.A.M.Diracが80年以上も前に言い切った「化学のための基礎的物理法則は完全に分かった。・・・」という立場に立った研究スタイルも十分可能です。つまり、金環日食の日時が正確に予測できるように、化学現象も、原理的に解析・予測が可能な時代になっています。私たちはこのような立場に立って、頭と体、そしてコンピュータを駆使して、様々な化学現象を解明するために理論研究、特に分子と光の相互作用を中心とした研究を行っています。ここでは夏向けに海の色に係わる研究例を紹介します。
 多くの方は、空の青色や夕焼けの赤色が、光の散乱現象に起因することをご存知でしょう。それでは海の色の原因は何でしょうか?Lord Rayleigh (1910)は空の青色が反射するから、またC.V.Raman(1922)は光が水中の水分子によって散乱されるから、と述べています。その後、坪村宏ら(1980)は、可視光が非常に微弱ではあるが水分子の振動運動によって吸収されること、また長波長の赤色が青色に比べて強く吸収されることを観測し、光の散乱ではなく吸収がその色の原因であると発表しました。

 図1に示すように水分子 H2O のOH結合は、Oδ-Hδ+と電気的に分極した単振動とみなすことができます。このため一休さんが寺の鐘をゆらしたように、水分子に単振動固有の振動数νの赤外光をあてると、共鳴現象によってその光は吸収されます。しかしOH原子間に働く力には、その平衡核間距離からのずれの一次に比例する力(単振動)だけでなく、非調和項と呼ばれる高次の力も含まれ、さらには、分子の振動に伴って、原子上の電荷(δ+やδ-の値)も変化します。このため共鳴振動数の整数倍(倍音とよぶ)nνの振動数でも吸収が起こり、その強度は n とともに弱くなることが知られています。我々の研究からも、水分子の倍音のうちn=4の可視領域の赤色は、弱いながらもn=6の青色の100倍も強く吸収されることが分かりました。

 さらに各波長の吸収強度の違いが生み出す色を理論的に作って図2の右下に示しました。光の通過距離に依存して濃淡は変わりますが、海や湖の水が青いのは、太陽光のうち赤い色の成分が効率的に吸収され、補色の青色が目に入るためだと考えられます。
 分子振動にともなって電荷やエネルギーが変化する様子をコンピュータで評価できる時代が到来しています。上に海の色に関する3つの説を示しました。このように研究の発展段階では、一つの実験事実を説明するのに数種のモデルが考えられることが良く起こります。その中で正しいものを選び出し“The right answers for the right reasons”を得るには、理論化学のアプローチが非常に有効です。今後この傾向は、年々強くなるはずです。
 最近、将棋の現役プロとコンピュータの戦いが話題になりましたが、それと関連して、近年世界的規模で失業者が増加しているのは、人間がコンピュータをはじめとする機械との競争に負け始めたためである、という論説を読んで考え込んでいます。もう20年もすれば、化学研究のスタイルもかなり変化しているはずです。むろん同様の潮流は他の科学分野にも押し寄せています。将来の研究者である学生諸君は大学で何をどのように学ぶのが良いでしょう?理論化学云々は別として、皆さんには将来コンピュータに任せても良いような内容ではなく、人間が将来にわたって優位に立つことのできる創造性や考える力を伸ばすような学び方を目指して欲しいと考えています。

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