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理工学部HOME > 学問のすゝめ > タンパク質と銅イオン:その密接な関係を解き明かす

学問のすゝめ

タンパク質と銅イオン:その密接な関係を解き明かす

古川 良明 (化学科 准教授)

皆さんは、「銅」という言葉から何を連想されますか?手元にある10円玉や、あるいはオリンピックのメダルを思い浮かべる方が多いことでしょう。しかし、私の生命機構化学研究室に在籍する学生諸君は皆さんとは少し違って、「タンパク質」と答えてくれるはず(?)です。タンパク質は20種のアミノ酸からなる有機的な高分子で、無機物の代表格である金属とはなんら接点がなさそうですが、実は、金属イオンを結合して初めて生理活性を発揮するタンパク質は数多く存在します。とりわけ銅イオンは重要で、皆さんが今この瞬間にも呼吸して生きているのは、あるタンパク質が銅イオンを結合し機能しているおかげです。あるいは、私たちの研究室で扱っているSOD1と呼ばれるタンパク質は、銅イオンを結合することで酸化的なダメージから体を守る重要な役割を担っています(図1)。つまり、細胞の中で、タンパク質がその小さなパートナーである銅イオンをどのように見つけて結合するのか、そのメカニズムを知ることは多くの生命現象の本質を理解することにつながります。

銅は地殻の0.00007%しか存在しない希少な金属で、各地で頻繁に盗難される理由も多少は理解できます。しかし、生物がなぜそのような希少な金属イオンを、生死に関わるほど重要な因子としてわざわざ選んでいるのか、その理由はよく分かりません。面白いことに、生育に酸素を必要としない古細菌は銅結合タンパク質を持たないようなので、地球上で酸素濃度が急激に増大した30億年ほど前の劇的な環境変化によって、銅イオンを利用せざるを得なかったのかもしれません。ただ、酸素が存在する現在の環境下では、銅イオンは活性酸素の発生源となりDNAや細胞膜を傷つけるので、銅イオンが細胞内に無秩序に存在する状況は是が非でも避けねばなりません。そのために、細胞の中では、銅イオンは、特定のタンパク質からタンパク質へとバケツリレーのようにして運ばれていきます。私は、SOD1タンパク質を例にして、こういった「銅イオン輸送ネットワーク」の稼働をコントロールするメカニズムを明らかにしてきました(図2)。

さらに、このネットワークの一部がうまく機能しなくなると、タンパク質が異常に会合した凝集体を形成し、筋萎縮性側索硬化症(ALS)と呼ばれる神経難病の発症につながるのではないかとも提案しています(図3)。実際に、一部のALS患者の運動神経細胞には、図に示したようなSOD1からなる線維状の凝集体が蓄積していることが報告されています。タンパク質と銅イオンとの関係を考えだすと、太古の昔に思いを馳せたり、神経難病の治療法に応用できないか期待したりと、知的好奇心が絶えることのない毎日です。

私はシャーロック・ホームズの大ファンです。「私は頭脳なのだよ、ワトソン君。残りの部分はただの付け足しさ」と言うほど、論理的な思考にこだわりを見せる彼の言動は、私たちの研究対象であるタンパク質を理解する際に必要な多くの事を教えてくれます。例えば、ホームズの部屋を訪れた依頼人がどこからやってきたのか、ホームズが見事に言い当てるシーンがあります。それは、巧みに仕組まれたトリックではなく、ただ、依頼人の靴に付いた泥の性質を、ホームズが記憶しているロンドン市内の土壌の特徴と瞬時に照らし合わせて、依頼人の足取りを導き出すに過ぎないのです。つまり、膨大な知識を背景に、鋭い観察力と想像力をもって、ほんの小さな事実のかけらから論理的に壮大な真理を導き出す。私たちの依頼者であるタンパク質が、銅イオンという「泥」をどこでどのように付けてきたのか、ホームズの推理をできれば一度聞いてみたいものです。

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