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理工学部HOME > 学問のすゝめ > 分子ブロックの組み立て : 分子集合体化学と機能発現

学問のすゝめ

分子ブロックの組み立て : 分子集合体化学と機能発現

分子ブロックの組み立て (Molecular Building Blocks) : 分子集合体化学と機能発現

羽曾部 卓 (化学科 准教授)

<ボトムアップ法による分子積層とは?>
 昨今のナノテクノロジーの急速な発展と連動して「トップダウン」や「ボトムアップ」といった用語が頻繁に使われており、おそらく一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。近年、特に注目を集めているのはボトムアップ型の手法です。ナノテクにおけるボトムアップ法を端的に述べると、1ナノメートル(10のマイナス9乗 m)にも満たない原子や分子の各ユニットを一つずつ積み上げて、ある一定サイズの微小な「集合体」をつくり出すことです。つまり、本稿で述べる'ボトムアップ法による分子積層'とは分子を一つのブロックやピースと見立てたLEGO ブロックやパズルと言えば、よりイメージしやすいと思います。

<化学におけるボトムアップ法を用いた分子集積化への戦略>
 では、このような極めて微小な分子を我々の思いのままに積み上げていくにはどういう戦略をとるべきでしょうか?もちろん、LEGO ブロックやパズルのように自らの手で直接組み立てることは出来ません。我々化学者が選ぶ戦略の一つとして、共有結合や水素結合といった化学結合を巧みに用いて組み立てていくことが考えられます。一般に、化学結合の中で、共有結合は非常に強く、また、配位結合・水素結合・分子間力といった化学結合(もしくは相互作用)はそれぞれ相対的に結合力が異なります。従って、その差をうまく利用すること(超分子化学的手法)により思い通りの場所に分子を配置・積層させていきます。

<機能を引き出すための分子集合体設計とは?>
 次に、上記手法により我々が合成した分子の積層体によって本当に顕著な機能が発現するのでしょうか?我々のグループでは超分子化学的手法を用いて、太陽光発電に代表される光電変換システムの構築を積極的に展開しています。ではどのように設計するのかというと、重要な点は目的とする機能を引き出すためにメカニズムを吟味することです。例えば、光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換とは異なる3つのプロセス:①光吸収(及び励起子拡散)、②キャリア電荷生成(電荷分離:正孔と電子が分離した状態)、③キャリア移動が連続的に起こってはじめて機能発現します。従って、これら光電変換の各機能が系統的に駆動するように物理化学的な知見を踏まえて分子集合体を設計・合成し、実際にデバイス応用へと展開します。

【具体例:太陽電池への展開】
その1:分子レベルでのP / N 接合界面構築
 ここで用いる有機分子は自然界の光合成構成色素であるクロロフィルと似た構造を持つポルフィリン(電子を渡しやすい分子:P)や球状分子のフラーレンC60(電子を受け取りやすい分子:N)などです。ともに1 ナノメートル程度の分子サイズです。一例として図1に高次組織化のプロセスを示します。まず、ポルフィリンをアルカンチオール鎖で介して金ナノ微粒子と共有結合により組織化し、一方でフラーレンを溶けやすい良溶媒中(トルエン)で混合させると、ポルフィリンーフラーレンの超分子形成、すなわち、一分子レベルでのP/N 接合界面(電荷分離界面)の構築が可能となります。次に、溶けにくい貧溶媒存在下(アセトニトリル)で混ぜ合わせると100nm サイズ程度の粒子状集合体が形成され、光捕集とキャリア移動の両機能を集合体内部に付与できます。特に、スペーサーとなるアルキル鎖長(n=5,11,15)を長くすると、最近接のポルフィリン二分子間の距離が微妙に変化するためフラーレンが取り込まれやすくなります。これは言い換えると、P/N 接合界面を分子レベルで精密制御したと言えるわけです。実際に、粒子状集合体を電極基板上に薄膜化させて太陽電池を作製すると、光電流応答は可視光全領域のみならず、電荷移動吸収帯由来の近赤外領域(950nm 程度)まで広がります。光電変換特性は光電流発生外部量子効率(IPCE 値)約60%及び光電変換効率約2%となり、高次組織化により約50 倍もの光電変換効率の改善が達成されます。このような集合体設計戦略は樹状高分子であるデンドリマーや鎖状高分子を用いても同様の効果が得られました。


その2:棒状分子集合体内部におけるP / N 接合界面制御
 等方的粒子状ではなく異方性棒状集合体を合成できれば、結晶性向上に伴う光・電子物性の改善、また、キャリア移動の方向付け等の新たな機能・展開が期待できます。異なる結合様式(配位結合と分子間力)を駆動力として、図2のようなフラーレン(N)層が内側、ポルフィリン(P)層が外側というフラーレン内包型ポルフィリンナノロッドの作製にも成功しました。この内外二層に分かれた棒状構造ではP 外層での光吸収、P/N接合界面での電荷分離、さらにP 及びN 各層でのキャリア移動と光電変換の系統的駆動が期待され、実際に良好なキャリア電荷生成及び可視光全域での光応答が観測されました。

その3:カーボンナノチューブ表面上でのP / N 接合界面構築
 球状分子のフラーレンC60 とは異なり、特徴的なシリンダー構造を有するカーボンナノチューブ(CNT)は良好なキャリア移動が期待できます。また、CNT 表面上に二次元のπ平面構造を有するポルフィリン分子を組織的に被覆(超分子組織化)できれば、溶解性のみならず、光捕集及び電荷分離特性の改善が可能となり、光電変換デバイスへの適用にも繋がります。我々はポルフィリンと単層カーボンナノチューブ(SWCNT)との超分子組織化について検討し、図3のように棒状ロッド集合体を構築することに成功しました。同様に光電変換セルを作製したところ、SWCNT 単独の系と比較してポルフィリンのSWCNT 表面への被覆(P/N界面形成)により光電変換特性は2 桁の大幅向上を示しました。

<今後の展開:触媒系やエレクトロニクス全般への応用も可能>
 本稿で示してきた分子集合体は太陽電池等の光電変換だけでなく、必要とする機能を予めプログラムすることによりエレクトロニクス全般や触媒系など様々な応用展開が可能となります。例えば、光電変換において発生するキャリア電荷を利用すれば、化学エネルギー変換(水素発生など)や物質変換にも利用可能です。また、最近我々は図4のような多環芳香族炭化水素の一種であるトリフェニレンを中心積層ユニットとしたポルフィリン六量体の設計・合成を行いました。この六量体を有機溶媒中に溶かして基板上にキャスト・乾燥させるだけで特異かつ綺麗な線状の単分子層のパターンニング構造が現れます。このパターニングは「分子配線」として、将来の超微細エレクトロニクス技術への展開も期待されます。このように、合成化学や超分子化学を駆使した分子集合体化学は単なる化学分野のモノづくりにとどまらず、今後、物質科学において重要な役割を担うと期待されます。


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