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学問のすゝめ

強相関電子材料設計のすすめ

的場 正憲 (物理情報工学科教授)

 どの世界にも、雑誌「LEON」に登場するような「ちょいわるオヤジ」が存在します。電子の世界にも、ワイルドで逞しいパンツェッタ・ジローラモ(Panzetta Girolamo)氏のような部類の電子が存在します。このような「ちょいわるオヤジ」が多数存在すると、その個性が互いにぶつかり合い、世間の予想を遥かに超えた「いざこざ」が多数発生するようになります。それが魅力的であればあるほど、ますますOL様方からの熱い視線が注がれることになります。何と言っても、高度成長を支えてきたのは真面目なオジ様方ですが、「ムーアの法則」が限界に達する近未来(トランジスタが原子レベルにまで小さくなり限界に達する2020年頃)において世の中を救ってくれるのは「ちょいわるオヤジ」達の集団かも知れません。ここまでは、少し悪ぶって記述してきましたが、以下ではもう少し学術的に「ちょいわるオヤジ達の集団的活躍の舞台」について述べることにしましょう。

 電子は負の電荷をもった粒子であるため、電子間には互いにクーロン反発力が働きます。しかしながら、通常の金属や半導体といった固体中ではこのようなクーロン反発力は比較的小さく、電荷を運ぶキャリア(最外殻電子またはその抜け穴である正孔)は空間的に広がった波として表すことができます。従来の半導体エレクトロニクスでは、このような互いに独立した波(個々の電子または正孔)が運ぶ電流を制御して、いろいろな機能を発現させています。代表的な材料にSi(シリコン)があり、半導体エレクトロニクスの旗手として私たちの社会の高度成長を支えてきました。

 一方、クーロン反発力が大きく無視できないような電子集団(強相関電子系)をエレクトロニクスに応用しようとする動きがあります。これは、強相関エレクトロニクスと呼ばれ、電子全体が相互作用の結果、お互いに強く相関をもって運動する(強相関電子)系を基礎物質(例えば遷移金属酸化物)として、従来理論の予想を遥かに超えた機能の発現を目指しています。銅酸化物超伝導体材料における超伝導や重い電子系材料における強磁性も、そのような強相関電子系の一例です。電子が各サイトにほぼ一個いるような (ハーフ・フィルドの) 状況下では、クーロン反発力が大きすぎると電子はほとんど動けなく(各サイトに局在するように)なりますが、上手く正孔(電子の抜け穴)を作ってやると、多くの電子が互いに強く相関をもって動けるような「悪い金属」的な状況が生まれます。従来理論の予想を遥かに超えた高温超伝導という現象もこのような状況下で発現しています。このような「悪い金属」中の環境は、電子にとって創発的な(予期せぬ新しい性質が発現するような)環境であると考えられます。言い換えれば、「悪い金属」には、電子が創発的に活躍できるような舞台があるのです。

 次に、ちょいワル金属「悪い金属」のマテリアルデザインについて述べたいと思います。かっこよく言えば、相関電子が創発的に活躍できるような舞台をどう設計するか? ですが、そのような舞台の例としては、銅酸化物高温超伝導体のCuO2平面ユニット(Cu;銅, O;酸素)や重い電子系材料として代表的なThCr2Si2型ユニット(Th;トリウム, Cr;クロム, Si;シリコン)が、そのような舞台であることが分かっていますので、このようなユニットをもった物質を設計・探索することになります。私達は、このようなナノ機能性ユニットが集積した物質開発という観点から、図のような物質を研究してきました。

 Cu2S2ユニット(Cu;銅, S;硫黄)とMO2平面ユニット(M=Mn;マンガン, Co;コバルト, Zn;亜鉛)が自然に積層した遷移金属オキシサルファイドという物質について、機能開拓・物性制御要因の解明プロジェクト研究を行ってきましたが、巨大熱起電力を有する新奇な層状磁性体[1]を開発できたものの、残念ながら、高温超伝導という機能は開拓できませんでした。しかしながら、1999年4月~2005年3月の6年間(学部4年~博士3年)、本プロジェクト研究に参加し博士学位を取得した神原陽一氏(物理情報工学科1期生)が、東工大細野研博士研究員として2008年初頭に、Fe2As2ユニット(Fe;鉄,As;ヒ素)とLaOユニット(La;ランタン, O;酸素)が積層した新鉄系高温超伝導体[2]を発見し、「悪い金属」において相関電子が創発的に活躍できるような神がかり的な(見事な)舞台設計を披露してくれました。

 鉄系物質中の電子を見事に操り高温超伝導を発現させた神原陽一博士の歴史的偉業を垣間見た時、強相関電子材料にはもっともっと予期せぬ物理現象が潜んでいる可能性が感じられました。何が起こるか分からないからこそ研究するのだと思いました。塾祖福澤諭吉先生のように、雲ひとつない心で、カラリと晴れた精神[3]をもって、研究に励まなければならないと感じました。ちょいワル金属「悪い金属」を近未来エレクトロニクスに応用することは可能でしょうか!? 「電子相関」という物理学の難問中の難問を、従来の半導体エレクトロニクスと同じように自由に操れる時代が来たとき、創造力と想像力に基づく新時代の大きな文化「強相関エレクトロニクス」が誕生する、と私は信じています。

[1] Y. Kamihara, M. Matoba, T. Kyomen, and M. Itoh, J. Appl. Phys. 91, 8864 (2002).
[2] Y. Kamihara, T. Watanabe, M. Hirano, and H. Hosono, J. Am. Chem. Soc. 130, 3296 (2008).
[3]福澤諭吉, 富田正文:「新訂 福翁自伝」(岩波文庫, 1978).

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