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理工学部HOME > 学問のすゝめ > シリコン量子コンピュータ —究極の半導体素子を目指して—

学問のすゝめ

シリコン量子コンピュータ —究極の半導体素子を目指して—

伊藤公平 (物理情報工学科助教授)

 高度情報化社会を支えるのがシリコン半導体技術です。その性能は「小型化(微細化)」によって向上されてきました。小さくすれば動作速度が上がり、電子手帳やICカードのように簡単に持ち運べるコンピュータが実現します。図1に示すのがムーアの法則に基づくシリコン半導体性能のトレンド予想で、縦軸がトランジスターのサイズ、横軸が年です。過去30年以上もムーアの法則が成立したのだからこれからも大丈夫と言いたいところですが、2030年には0.1ナノメートル、つまり原子一個ずつの大きさ(体積)でビット情報(0か1)を処理することになっています!

 そこで私たちが研究対象に選んだのが、シリコン原子一個ずつを使った情報処理です。天然のシリコンはSi-28,Si-29,Si-30という3種類の安定同位体によって構成され、なかでもSi-29だけが原子核スピンをもつ「磁石」です。さらにシリコン中にリン原子を上手にいれてあげましょう。そうすればリンには一個の余分な電子がついていて、これが「磁石」です。また、リンの原子核も「磁石」です。ここで方位磁針の北向きを0、南向きを1と決めるように、原子核や電子磁石の上向きを「0」下向きを「1」と定義して、これらを自由自在に操ることができれば、原子一個・電子一個ずつにビット情報を担わすコンピュータが完成します。(概念図を図2に示します。)

 言うのは易しですが、これは大変なことです。まず、原子レベルの現象のすべてが「量子力学」に従います(従わないことを実験で見つければノーベル賞級の大発見となります!)。すると原子・電子磁石は「0か1」というデジタルではなく、「0でもあり1でもある」という変な状態になります。この不思議な「量子ビット」を使って現代のコンピュータの不可能を可能にすることを目指すのが量子コンピュータ開発で、基礎科学の最前線であります。

 ではどこが最前線なのでしょう?研究では、まず、どんなデバイスを作りたいのか(アーキテクチャー)を考えます。原子レベルで積み木をして、どうやって量子情報を読み込ませ、どうやって演算させ、どうやって読み出すか?を考えます。ここでは、計算機科学の最前線の知識が要求されます。次にデザインにそって個々の原子を配置する技術を開発します。図3に示すのが、我々の研究室で並べているシリコン原子(写真中の個々の粒)のスナップショットです。個々の原子を扱うのでナノテクの最前線で、物理学と材料科学の知識と高度な実験能力が要求されます。演算では量子ビット(磁石の向き)を自在に操作することを行いますここでは核磁気共鳴や電子スピン共鳴という実験物理学の技術を駆使します。最後の読み出しでは極めて弱い個々の磁石の電磁力を検知する究極の計測技術が要求されます。図2にリンの発光で一個の光の粒(光子)が飛び出ている様子が示されていますが、この光子の偏光が量子情報をもっていて、リン原子核磁石の向きを読み出すことにも役立ちます。でも光の粒ひとつの偏光を測るのは難しそうですね?

 結局、量子コンピュータ研究の一番の楽しみは、物理学・化学・材料科学・情報科学の最前線を融合して、世界中の異分野の先端人たちと不可能を可能にしていく点にあります。当然、工学の最前線でもありますから、ここで解明された現象が将来の思いもよらない応用につながるでしょう。この努力の積み重ねが、 20年後の役に立つ量子コンピュータとして報われるのです。そして計算機科学も同時に発展することによって、古典力学では不可能なシミュレーションが可能になることが期待されています。宇宙の起源解明、化学反応、新薬開発、熱伝導、磁気、デバイス特性といったすべてのシミュレーションは古典力学に基づく現在のコンピュータを使って行われていますが、もとをただせば原子(すなわち量子)の集合体の挙動を古典力学で計算するのは不自然です。そこで「量子力学を使ってシミュレーションをしよう!」と、あのベストセラー「ご冗談でしょうファイマンくん」の故ファイマン先生が提案しました。しかし、その当時(1982年)は、原子・電子・光子一個ずつを扱う技術はありませんでした。今は違います。だからこそ、科学と工学の英知を結集して量子コンピュータ研究に取り組むのが面白いのです。「いつかは図4に示すような室温動作シリコン古典-量子ハイブリッドコンピュータを作りたい!」これが私たちの夢です。無理だと言う人しかいませんが、30年後にむけて誰かがやらなければいけないのです。

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