新板 窮理図解

専門の選び方
 最初からネットワークの世界を目指したわけではありません。高校生の頃は航空宇宙に興味がありました。私が小中学生の頃は、今みたいにロケットが次々に打ち上げられていたわけではないので、憧れの対象でした。
 航空宇宙を専門にしたいと東京大学に入りましたが、物理学があまり好きになれず、電子情報に進路を決定しました。無線とインターネットに魅力を感じていたからです。高校1年生の時に、短波ラジオを手に入れたのをきっかけに、自宅にあったカーテンレールを利用してFMアンテナを独学でつくり大阪のFM放送を楽しんだり、上空にスポラディックE層と呼ばれる特殊な電離層が発生した際に、聞こえるはずもない北海道の放送を受信できたこともあり、電波の神秘性に心を奪われていました。また、同じ頃に手紙を書いて数カ月後に受け取っていたイギリスBBCの短波放送の最新プログラムや周波数情報を、ウェブサイトから即座に入手できたことにも感動していました。
 これらのことを思い出して、無線やインターネットで情報をやり取りする電子情報を選んだのです。卒論ではモバイルインターネット、修士ではモビリティサポート、博士ではネットワークアーキテクチャを考えるようになりました。

研究テーマの変遷
 DMCに来て4K映像の伝送実験を始めると、課題がたくさん見つかりました。学生時代に学んだあらゆるネットワーク技術を持ち込んで解決を試みましたが、うまくいかないことも多々ありました。そのたびに、わざわざネットワークを使わなくてもいいのでは、と周囲(ネットワーク技術者ではない人たち)から言われ、ネットワークの意義や価値とは何だろうとつくづく思いました。さらに、4K映像を配信できる技術を創っても、ネットワークを介して4K映像にアクセスしたいと思う人がいなければ、その技術は生きてきません。そこで、一つでも多くのコンテンツを閲覧してもらえるような世界の実現を考えるようになりました。
 誰もが簡単にデジタルの情報を作れるようになればなるほど、デジタルの情報が埋もれやすくなってしまうのが現状です。ですから、コンテンツとコンテンツを繋いでおいて、何かをきっかけに少しでも人の目に触れる機会をつくっておくことが重要になります。すなわち、コンテンツをネットワーク化することが重要と考えたのです。現在のインターネットの規模の何兆倍もの規模のネットワークです。そして、この大規模なコンテンツのネットワークにどんな仕組みがあったら情報の精査がしやすくなるのかを研究テーマにしています。

情報の精査とは?
 何が真実かを自分なりに見極めることです。先生が教えてくれたことだから、教科書や文献に書いてあるから、経験したことだから、すべて間違いがないと考えてはいけません。これらはきっとある事象のある側面においては真実ですが、今自分が向き合っている事象において同じ側面を見いだせるのか、また同じ側面を見ることに価値があるのかは、よくよく考えなければいけません。過去の知見は最大限活用して事象の側面の切り取り方の参考にしながら、真実をつねに模索し続けることです。ひとつの側面に満足してはいけません。側面が多いほど真実に近づくのです。もちろん、真実の探求に失敗はつきものです。失敗しても新たな側面に気づくことができたのであれば、必ず次につながります。
 過去の知見を自分のものにするためにも、常日頃のいろいろな経験や観察、そして惜しみない考察が重要です。

どうもありがとうございました。

◎ちょっと一言◎
学生さんから
IT機器の修理サポートのアルバイトがきっかけで、ネットワークの知識を深めたいと思うようになって、金子先生の研究室を選びました。私たちの世代は、インターネットはつながって当たり前ですが、インターネットが機能する理由を1つずつ理解することが大事だなと思います。先生からは、世の中の課題を見つけ、解決策を考える姿勢を学んでいます。一方で、学生のプライベートも気にかけてくださる、気さくな先生です。

奥様の池田真弓さんから
理工学部で英語と総合教育科目を教えています。慶應義塾大学が所蔵するグーテンベルク聖書のデジタル化に携わっていた関係で、DMCのメンバーになりました。現在は、金子さんのモザイクプロジェクトのミュージアムコンテンツに関わっています。9カ月の男の子がいて、子育てに奮闘中です。金子さんはなかなかイクメンで、保育園の送迎、お風呂、オムツ替え等々、育児はほぼ全てこなすことができます。料理もできるのですが、なぜか離乳食作りはしてくれません…。

(取材・構成 池田亜希子)