新板 窮理図解

今の学生に望むことは?
 2010年に慶應義塾大学に異動してきました。化学科の先生方が「慶應に新しい研究分野の導入を」と尽力して下さった結果、私は新しい研究室を立ち上げることができました。
 慶應義塾大学は、多くの卒業生が広く社会で活躍しており、いわば日本の原動力とでも言うべき存在だと感じています。それは素晴らしいのですが、一方で、学生たちには慶應というブランドやその人脈に頼りすぎず、個々人が各々の色を出して欲しいとも感じています。大学には国の政策には左右されにくい“私学”の良さをこれまで通り発揮し続けて欲しいと思っています。
 また、最近の学生に非常に多いと感じるのですが、学問を物理・化学・生物に無理矢理に細分化したり、基礎か応用かをやたらと気にしたりすることはやめるべきだと思います。学問には本来、境界はないので、こうした考えは自然科学の理解の妨げとなるからです。
 大学は、自分のこれからの路を見つけるための場所であって、企業に就職するための単なる通過点ではありません。私は“noblesse oblige”という言葉を森島先生から教わりました。これは「高貴なものには、それなりの責務がある」という意味です。慶應という恵まれた環境に置かれているのですから、今の学生には、自分はいったい何をすべきなのかをもっとよく考えて、プライドをもって生きて欲しいと感じています。

研究の合間に息抜きなどはされますか?
 世界の言語や文字が大好きで、今でも気になる展覧会などには家族と一緒によく足を運びます。きっかけは、中学か高校時代に読んだ井上靖の『敦煌』に出てくる「西夏文字」。「漢字のようだけれども漢字ではない」と小説の中で紹介されるその西夏文字が一体どのような文字なのか、非常に気になって仕方なかった記憶があります。インターネットで調べることのできない時代だったので、幾つかの図書館や本屋を巡って、西夏文字について色々と調べました。初めて西夏文字を見たときには、何とも言えない不思議な感覚になったことを覚えています。それ以来、世界中の至る所に色々な文字があることを知り、不思議な文字を眺めているだけで癒されます。
 本を眺めているだけではどうしても飽き足らず、実際に古代文字を見てみたくなって、エジプト(ヒエログリフ)・イラン(楔形文字)・メキシコ(マヤ文字)をはじめとして、色々なところを旅しました。中国のカシュガル(新疆ウイグル自治区)では、ウイグル語を漢字で表記するので、町中にいろんな漢字が溢れているのだけれども、意味が全く分からないという状況は非常に刺激的でした。そもそも旅行することは大好きでしたが、それは両親が小さい頃から国内外を問わず色々なところに連れて行ってくれたからだと思います。喜びや苦しみを分かち合える人と一緒に、世界の文字を見る旅行をするのが大好きで、妻とは結婚前からあちこちを訪れています。
photo 日々の息抜きは、何と言っても小学生と幼稚園生の娘たちと遊ぶこと。見ているだけでもとにかく面白いんですよ!

どうもありがとうございました。

◎ちょっと一言◎
学生さんから
古川先生が慶應義塾大学に移られてきた2010年に、私も大学に入学しました。タンパク質のような大きな分子を扱った研究に挑戦したいと考えていたので、「これだ!」と思って金属タンパク質について研究している古川研を迷わず選びました。今は、博士課程1年生の私を信じていただき、自由に研究させてもらっているのが心地いいです。

(取材・構成 池田亜希子)