新板 窮理図解
これまでに多くのすばらしい人たちと出会い、いろいろな場所で研究をしてきた古川さん。
どんなに小さなことでも、
今の学生たちには「考えることの楽しさ」を忘れないで欲しいと強く願っている。
また、生化学と無機化学の境界領域にある金属タンパク質の研究を続けてきた経験から、
さまざまな分野に興味をもつことの大切さを感じている。

どのような幼少期を過ごされたのですか?
 小学生の頃は、学校から帰ると暗くなるまで友達と野球をする毎日で、将来は阪神タイガースの選手になると本気で思っていました。虫や生き物も好きでしたね。放課後には、空き地に行ってバッタを捕まえたり、田んぼや用水路に入ってオタマジャクシやザリガニを捕ったりしていました。
 学校の勉強にはあまり興味がありませんでしたが、小学校5、6年生のときに「考えることの楽しさ」に思いがけず触れることになりました。当時の担任だった後藤先生は少々風変わりな先生で、小学生の私たちに、星の明るさと距離の関係を考えさせたり、周期表をもとにして原子のいろいろな性質を教えてくれたりしました。また、私たちをよく外に連れ出して、実際に観察したり体験したりすることの大切さを理解させてくれました。小学生にはかなり高度な内容だったと思いますが、学問の面白さを肌で感じることができました。

photo化学に興味をもたれたのはどうして?
 中学・高校時代に数学オリンピックやいくつかのコンクールに挑戦して、解答ではなく解法の美しさを楽しむ世界があることを知りました。頭の良い人たちの解法はいたってシンプル。問題を速く解くのではなく、じっくり考えて美しく解く。そんな人たちに囲まれた環境が学問の楽しさを教えてくれたと思っています。ある日の化学の授業で有機電子論に触れ、その明解な考え方に魅了されたことをよく覚えています。そのようなシンプルで美しい化学をさらに深く学びたくて、大学は化学が強いといわれる京都大学を選びました。しかし、当時の京都大学では、試験さえクリアすれば卒業できたこともあってか、授業にはあまり出席しませんでした。化学はいろいろな教科書を読んで勉強する代わりに、ラテン語やドイツ語ゼミの輪読会に参加したり、学内で開催されるセミナーを聞きにいったりと、化学以外の学問にも触れることができたのは非常に良い経験になりました。多くの親友もできて学生生活を満喫していましたが、今思うと日本の化学を代表する先生方の授業を聞いておけばよかったと後悔しています。