新板 窮理図解

数学者はいまでこそ企業から引っ張りだこですが、一方で、数学研究者の就職は難しいとも聞きますね。
 数学研究者というのは狭い門なので、研究の実力の他にもタイミングや運が必要なのだと思います。私が博士課程を修了したころは、研究者を目指す若い人が増えていたのに職の数は減っている時期だったので、椅子を勝ち取るのは熾烈な戦いでした。結局、北大のあとは半年間東大のポスドクをしたのちにトロント大学のポスドクになりました。トロント大学に向かう直前に慶應大学から採用の内定を得たので、トロントでの滞在を予定より短く半年で切り上げ、2008年4月から慶應義塾大学理工学部数理科学科の専任講師として着任しました。とても良い大学に就職できたおかげで、5年間のポスドク時代も無駄ではなかったと感じます。慶應大学に着任してからは、デンマーク大学にも滞在する機会を得ました。
 慶應大学理工学部の良さは、先生と生徒の距離が近く、まさに「半学半教」を実践しているところですね。真剣に議論したり、お酒を酌み交わしたり、アットホームな雰囲気の中で過ごすことができ、とても気に入っています。また、私が知っている国内外の数学系の学科とは異なり、慶應大学の数理科学科は純粋に数学の理論を究めるだけでなく、数学の応用にも力を入れています。学生も卒業後は研究者になる人は少数で、教員になったり企業に就職するなどさまざまな方面へ進む。統計や計算機科学の研究室など、幅広い学科の教員同士の交流も盛んで、私自身、視野が広がったと感じています。

先生ご自身も共同研究をなさるのでしょうか?
 ええ。最初は1人で研究していたのですが、トロントにいたときに、集合論の研究者が私の論文を読んで、ある問題に一緒に取り組まないかと研究室に訪ねてきたことがあるのです。その問題は30〜40年ほど解かれていなかった難問でしたが、一緒に研究することで解決できました。以来、私自身も積極的に他の研究者に声をかけるようにしています。

どういうときにひらめくのですか?
 問題を解く際には、いくつかの例や現象の共通点を見出して、文章化するのが肝です。そうやってずっと考えていると、リラックスした瞬間にふとひらめくことがある。シャワーを浴びていたり、歩いていたり、いろいろです。ひらめいたときは、嬉しくて、思わず共同研究者に電話をしたこともありました。
 だからこそ、一緒にいてリラックスできる家族の存在はとても大切だと感じています。私の良き理解者である妻と、小学3年の長男、年長の次男の4人家族です。長男は囲碁の腕前はすでに私と同じ三段で、負かされることも(笑)。神奈川県代表にも選ばれたんですよ。次男も私に似て、ボードゲーム好きで、だんだん強くなってきており、将来が楽しみです。

どうもありがとうございました。

◎ちょっと一言◎
学生さんから
勝良研究室に入ったきっかけは、先生の授業が圧倒的に面白く、難しい問題もイメージしやすかったから。確かに、セミナーのときにノートを見てはいけないというのは大変ですが、物事を自分で理解して、筋道を立てて人前で話すうえで、とてもいい訓練になっています。

(取材・構成 田井中麻都佳)