新板 窮理図解

photo研究室への配属のときに、研究の方向性を決められたのですか?
 実はふたたび物理熱が高まって、最初は物理の佐藤徹哉先生の研究室に入ったのです。ところが、4年の4月に、物理学科の助手から物理情報工学科の専任講師に着任された齊藤英治先生が新しく研究室を立ち上げられることになり、第一期生として入れてもらうことになりました。ちょうどその直前に、齊藤先生は逆スピンホール効果という現象を見つけられたばかりで、スピン流という新しい研究テーマに興味を惹かれたからです。さらに、翌年の2007年には、スピントロニクス分野の研究者がノーベル物理学賞を受賞したこともあって、一気に研究にのめり込んでいくことになりました。
 研究室に入ってまず驚いたのが、齊藤先生の物理に対する情熱と理解の深さです。たとえば、先生と議論をすると、直前までそのこのとについて考え込んでいたんじゃないかと思うくらいに、最先端かつ深い知識に裏打ちされた答えが返ってくる。つねに新しい研究にキャッチアップしつつも、何かを知っているという程度ではなく、深く理解して、自分の言葉で話をされる姿勢に、たいへん感銘を受けました。
 そのほか、研究室には齊藤先生について物理学科から移ってきた先輩の針井一哉さん(現在、日本原子力研究開発機構研究員)や、井上博之さん(現在、プリンストン大学研究員)、さらには「実験が趣味」という後輩の内田健一君(現在、東北大学准教授)など、とびきり優秀な研究仲間が揃っていて、大いに刺激を受けました。
 ただし、研究室はできたばかりで、実験装置がなかったため、他の施設を使わせてもらっていたこともあり、実験をするのは土日に限られていました。必然的に、平日は勉強したり、セミナーをやったり、議論に明け暮れたりしていたのですが、それが研究のアイデアを探ったり、考えを深めたりするうえでは、かえってよかったように思います。
 
サークルなど、研究以外の活動はされていなかったのですか?
 入学当初、テニスサークルに一瞬入りましたが、すぐに辞めてしまいました。また、研究室に入る前は塾講師や家庭教師などのアルバイトをしていましたが、研究室に入る際に、勉強に集中しようと辞めました。もちろん、息抜きで、学部のときの学生実験グループの仲間や研究室の仲間と飲みに行くことはありましたよ。

とはいえ、ほぼ研究一筋の学生生活を送られていたのですね。
 運が良かったというのもあるのですが、できたばかりの研究室で好きなように研究ができたことに加えて、新しい研究分野で次々に成果が生まれ、とにかく研究が面白かったのです。年に1回くらいは予想もしなかったようなデータが出ることがあって、その意味するところを理解した瞬間の、霧が晴れていくような爽快感はたまりませんでした。それこそ新しい現象を見つけたときは、自分だけがこの真実を知っているという特別な感覚に満たされるものです。研究者冥利に尽きる瞬間ですね。
 修士2年のときには、自分で仮説を立てて実験し、理論模型までつくって独力で論文にまとめることができ、大きな達成感を味わうこともできました。 実は、いつだったか齊藤先生に「次は何の研究をやったらいいですか?」と尋ねたことがあります。ところが、先生からの返答は、「安藤君なら大丈夫でしょう」というものでした。こうしたことがきっかけとなって、しだいに研究者としてやっていく自信がついたように思います。もっとも親からは、「まだ勉強するの?」と言われたこともありましたが、奨学金をもらっていたので、とくに反対されることはありませんでした。
結局、4年から博士課程までに、共著も含めて十数本の論文を書き、修士・博士課程を3年間と、短期間で修了しました。