新板 窮理図解
兄姉の影響で始めたピアノにバスケットボール。
いずれも自分の意思で始めたわけではなかったが、
継続することでしか得られない数々の喜びを経験してきた奥田さん。
ピアノやバスケを通じて培われた継続する力と、
環境の変化の中で養われた物事を客観視する力が、
研究の成果へとつながっている。

どんな幼少期を過ごされたのですか?
 出身は東京都福生市で、3人兄弟の末っ子です。7つ違いの兄と5つ違いの姉の影響で、4歳からピアノを始め、就職する27歳までずっと習い続けていました。 兄たちも幼い頃から弾いていたので、ピアノを弾くのは当たり前だと思っていました。小学校に入学して初めて、ピアノを弾かない子もいるんだと知ったくらいです(笑)。 あと、家族全員で、よくマージャンをしていましたね。
 父は高校教員から大学教員になって、私大の文学部で社会教育学を教えていました。夕方6時には必ず家に帰ってくる生活で、 よく学生たちを家に呼んでは、読書会や飲み会をやっていて、実に楽しそうでした。
 その父の背中を見て、いずれ自分も大学教員になろうと思うようになったのです。実際は、文系と理系では生活がかなり違っていて、 想像とはかけ離れた忙しい毎日を送っています。ちょっと気づくのが遅かったですね(笑)。いまは大学のすぐそばに家があるので、 夕食時はいったん家に帰って家族と一緒に食事をすませてから、また大学に戻る生活です。

勉強の方はいかがでしたか?
 両親からは、数学と国語だけはしっかりやりなさいと言われましたが、とくに勉強しろと注意された記憶はありません。 小中学校までは、勉強で苦労したことはなかったと思います。高校は、都立立川高校へ進学し、早くから理系を目指しました。 とはいえ、好きだったのは化学だけで、物理はまったくダメでした。得意分野は統計データを扱うこと。例えば、友達と野球をする際に、 メンバー全員の打率や打順を調べて記録しておき、統計データをもとに作戦を立てたりしていましたね(笑)。
 高校3年のとき、将来は環境問題の解決など、人の役に立つことをしたいと考えるようになりました。 そこで、進路は工業化学系を目指そうとしていたところ、当時の化学の先生だった大町先生から、「将来、化学の応用分野に進みたいのであれば、 大学では基礎をしっかり学んだほうがいい」とアドバイスをいただきました。そういうものかと、大学は東京都立大学(現・首都大学東京)理学部化学科へ進学しました。
 ちなみに、ちょうど高校3年の1年間、父の研究の関係で両親がともにイギリスへ行っていたため、進路について親に相談することはありませんでした。 すでに兄は社会人になって独立していて、その間は社会人1年目だった姉と2人暮らしだったので、姉にはたいへん苦労をかけたと思います。
 大学に入学すると、中高と続けてきた体育会のバスケットボール部に所属しました。連日、練習で疲れきってしまい、授業には出るものの、いつも教室の最前列で寝ている日々でした。 今から思えば、先生方には本当に申し訳ないことをしたと思っています。だから、自分の授業では、学生たちが退屈して眠くならないように、できるだけ面白い授業を心がけています。
 実は、そのバスケも兄と姉の影響で始めたんですよ。本当は野球をやりたかったのですが、結局、バスケをやることに。 ピアノもバスケも自分の意思で始めたわけではないんですね。もっとも、それを後々まで続けているのは、意思の力ではありますが…。
 ちなみに、バスケは頑張って週一で続けており、社会人チームに所属して主に日曜日に活動しています。応用化学科の学生たちと一緒に試合に出て、 塾長杯で優勝したこともあります。まさかこの歳までバスケを続けることになるとは思いませんでしたが、定期的に身体を動かしていないと、 体調が悪くなってしまうので、これからも続けていきたいと思っています。
 一方ピアノは、27歳までは、年に3回ほど発表会で演奏していました。何度か辞めようと思ったこともありましたが、男性の奏者は少なく、 小さい男の子たちの憧れの的のような存在になってしまっていたので、その期待に応えたくて、なかなか辞められなかった、というのはありますね(笑)。 その後始めたジャズやフュージョンなどのバンドでは鍵盤パートを担当し、アメリカ留学をした32歳まで続けていました。 オリジナルバンドでインディーズから2枚のCDをリリースしたほか、ライブハウスや矢上祭(学園祭)などのステージでも何度も演奏したことがあります。 いまは、多忙になってしまったので、演奏活動はお休み中です。
 兄弟の影響は、研究にも及んでいます。実は兄は、分析機器メーカーに勤めるX線装置の技術者で、私の研究にヒントをくれたことがあるのです。 以前、PM2.5中の金属成分の多元素同時分析法として、従来の酸分解/ICP-MS法ではなく、「エネルギー分散型蛍光X線分析法(EDXRF)」を使って、 簡便かつ短時間に精度よく分析できる手法を開発したんですね。そのエネルギー分散型蛍光X線分析を勧めてくれたのが兄でした。
 この方法はこれまで、感度が低く、微量分析には適さないと考えられてきたのです。そこへ工夫を凝らして条件を調えることで、 約15種類の元素について、1試料あたり約15分で分析できるようになりました。この研究の成果により、 「2014年度エアロゾル学会論文賞」および「鉄鋼環境基金第4回助成研究成果表彰【鉄鋼技術賞】」を受賞しました。半分は兄のおかげですね。
そうしたことから、去年、兄の会社に呼ばれて講演をさせてもらいました。まさか兄と仕事上でつながるとは思いませんでした。不思議な縁ですね。