新板 窮理図解

研究者になろうと思ったきっかけは?
 学部1年のときに、当時、東京大学にいらした舘暲(たちすすむ)先生(現・慶應義塾大学特任教授/東京大学名誉教授)らが主宰していたIVRC(国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト)という大学生向けのコンテストに出場したのがきっかけです。
 大学入学と同時に入ったサークルの先輩たちが、前年度にこのコンテストで優勝していたことから興味を持ちました。
 先輩たちが手がけたのは、「バーチャルボブスレー」という装置です。ちょうど長野オリンピックが開催される直前のことで、ボブスレーコースの模型をつくって、バーチャルにボブスレーが体感できるという本格的なものでした。実を言うと、先輩たちは前年度にがんばりすぎたせいか、もう出たくないと言っていたのですが、そこを説得してチームで出場に漕ぎ着けました。
 大学1年のときに最初に手がけたのは、水槽の中にある操作対象に自己投射した感覚をつくりだすテレイグジスタンス(遠隔臨場感)のシステムでした。初挑戦でしたが、日本バーチャルリアリティ学会奨励賞を受賞しました。翌年以降も多くの仲間や、その後に卒論でお世話になる先生方の助けを借りながら出場し、3年目には、3次元空間として表現したコンピュータの記憶装置のフォルダ構造の中を自由に歩き回れるシステムを制作し、奨励賞と技術賞を獲得しました。特に技術賞はそれまで、優れたメカを開発することで有名な東京工業大学ロボット技術研究会のチームが独占していたので、自分たちが受賞したときはとても嬉しかったですね。
 このコンテストを通じて、修士課程修了後にお世話になった前田太郎先生・安藤英由樹先生(現・大阪大学)、博士課程の恩師である稲見昌彦先生(現・慶應義塾大学)など、最先端のヒューマンインタフェース研究者と一緒に研究する機会を得たことで、研究の面白さを実感するようになりました。
 特に博士課程の研究のなかで、稲見先生と時空間分割多重による光計測の技術を手がけていたときに、自分が考案した輝度勾配指標(光の濃度の指標)を用いて光学素子の位置をリアルタイムに計測するという基本的な考え方を発展させることができたのは有意義でした。SIGGRAPH Emerging Technologies など、最先端の学会で好評を得たことが自信となり、研究を続けていきたいと強く思うようになりました。

photo現在はIVRCの運営を手がけていらっしゃるのですね。
大学4年からは運営側に回るようになり、現在は実行委員として運営をサポートしています。IVRCの開催は今年でちょうど20年になりますが、技術の進歩とともにその内容も非常に多彩になりつつあります。自分を含めて、これまでも数多くのVR、ARの研究者を輩出してきました。とても有意義な試みなので、研究室の学生たちにも積極的に参加を勧めています。今後も、ぜひ、多くの研究者の卵たちに参加してほしいですね。
ちなみに現在は私の手を離れていますが、IVRCのWebページをデザインしていたことも。というのも、研究の息抜きというか、趣味でもCGデザインを手がけているのです。学生時代には、数カ月分の生活費を投げ打って、とても高価だった3D CGのソフトウェアを購入したほど。当時はまさに清水の舞台から飛び降りる覚悟でした。最近は、教育機関だと無料で使える高機能なソフトウェアが多数出ているので、今の学生さんたちがうらやましいです。
息抜きで作ったCGは、実は研究の説明資料やWebなどに活用しているので、趣味と実益を兼ねています。先日、博士課程時代に国立天文台からの依頼で制作した人工衛星「ひので(Solar-B)」のCGモデルがNASAのWebに掲載されているのを見つけました。自分の作ったCGが多くの方の目に触れる機会があるというのはとても嬉しいことですね。
最近では、CGデザインの応用として、三次元造形装置「3Dプリンタ」を研究室に導入しています。研究に使用する装置の固定具などもCGモデルとして設計して、その場で作ることができます。趣味のデザインが研究の上でも実際に役立っていて、嬉しい限りです。
もっとも、研究でも趣味でもコンピュータばかりというわけではありません。3〜4年前から、富士スピードウェイを軽自動車で走行する「エコラン」に研究者仲間のチームと出場しています。自宅には液晶プロジェクタによる130インチ画面のホームシアターがあり、SF映画やアニメをよく見ています。学期の終わりには、学生たちを呼んでは、映画鑑賞をしつつ飲み会をすることもあります。とくに好きなのは、新海誠さんの作品です。幼い頃にテレビがなかった反動かもしれません(笑)。