新板 窮理図解

photo研究とは別に、何か息抜きにしていることはありますか?
 昔から妻と過ごす時間はとても楽しみでしたが、2年ほど前に娘が生まれ、家族との時間がさらに充実したものになりました。ただ、その時間が数学の研究と切り離された時間という感覚はあまりないですね。実は最先端の数学を研究しているときも、学生と接しているときも、そして娘と遊んでいるときも、すべて同じような頭の使い方をしていると感じています。数学と愛娘を同列に扱うと一見冷たい親のように見えてしまうかもしれませんが、私としては数学的対象にも娘に対するときと似たような愛情を抱いているのだと思います。
 人との向き合い方というか、関係の築き方について、その本質を考えることが楽しくなって、今ではこうした抽象化というか、数学的思索ともいえる視点を持つことが趣味みたいな感じになっています。
 その一方で、現実や具体的な事象を無視した安易な一般化には気を付けなくては、と思います。例えば「人間はこう育てるべきだ」と、どこぞの誰かが言ったことを深く理解せずに聞きかじり、状況を踏まえずに強引に持ち込むといったことです。抽象論を持ち込んで議論することに抵抗がある人が多いのは、あまりにも安易な一般化がはびこっているからではないかと思います。数学の抽象論を利用するときには、問題となる個別の場合に適用可能か、厳しく確かめます。このように、個別の問題の状況をきちんと把握して、考えている抽象論がその場合に適用可能かどうかを常に意識しながら考えていく癖は、とても大切だと思います。

慶應義塾大学の良いところとは、どんなところだと思われますか?
 最初に、学生がとても元気だと思います。2007年のフランス滞在中に、ケンブリッジ大学と慶應義塾大学の共催で開かれたUK-Japan Winter Schoolという整数論の研究集会に参加したとき、慶應の学生さんにとても良い印象を持ちました。
 また、多くの大学では数学は理学部の中にあり、私がいた東京大学や名古屋大学はさらに数学だけの独立した大学院で、他の学部から離れていたように感じました。でも、慶應では数理科学科は理工学部の中にあり、工学系の学科とも接点を持つことができます。他学科の教員と議論する機会も多く、理学と工学との相乗効果があると思います。元気のいい学生が多く、のびのびとした発想力にあふれているのも、こうした環境があるからかもしれませんね。

どうもありがとうございました。

◎ちょっと一言◎
学生さんから
最先端の数学を研究されているのに数学者然としたところが全くなく、学生の素朴な疑問や興味にもちゃんと向き合い、面白がってくれる自由闊達な雰囲気が魅力です。授業にも熱心で、僕らに数学の楽しさを気付かせてくれます。行き詰まったときには、さりげなくヒントをくださる優しさもあります。
新しいもの好きで、気になるものがあれば実際に確かめに行く行動力もあります。先日も電子白板を試すためにメーカーのショールームまで出かけられ、その感想を僕らに熱く語っていました。自分の興味を隠さずに話し、面白いものは面白いと笑う、親しみやすく、相談しやすい先生です。

(取材・構成 渡辺 馨)