慶應義塾大学理工学部 広報誌
  新版 窮理図解  
10 能崎幸雄 2 恩師の授業で物理の楽しさを知る

現実世界を説明できるところが面白いということですか?
 そうですね。どこか現実離れした印象がある物理に比べて化学はシンプルで、原因と結果が直結するすっきり感もありました。それが高校時代の私には面白く感じられたのだと思います。物事の本質をつかんでいる感覚さえありました。
 実は、私が物理の面白さに気付いたのは大学に入ってからです。きっかけは大学で出会った友人で、とにかく物理が面白い、物理以外は学問じゃないと力説する彼に感化されたんです。とりあえず選択肢に残しておこうというくらいの気持ちでした。それを決定的にさせたのが、今は名誉教授になられている宮島先生の電磁気学の授業です。先生の授業にはそれまで物理に感じていた非現実感がなく、腑(ふ)に落ちるというか、わかりやすく、面白くさえありました。物理って楽しいかもと思えたんです。大学2年のことでした。本音をいえば、もう少し早く気付きたかったですね。
 大学で物理を教えるようになって痛感したことの1つに、実感を持たせながら物理を教えることの難しさがあります。様々な現象の本質を説明するためには、ミクロな世界の物理的記述が不可欠です。ミクロな世界では、物質を構成する電子などが日常生活の感覚とは大きく異なる振る舞いをしていて、逆にそれがたいへん面白いのです。しかし、それを説明するには複雑な数式を駆使する必要があり、さすがに高校物理では難しすぎます。物理の面白さを実感するには高いハードルをクリアする必要があり、またハードルの高さに見合った面白さがあります。教える立場になって気付かされる物理の魅力があり、慶應義塾大学が掲げる「半学半教」を実感しています。
 また、物理の面白さを授業でも伝えたいと工夫していますが、これが難問です。今意識しているのは記憶に残る授業をしようというものです。そのため、手を動かしてもらうためにパワーポイントではなく板書をし、現実の現象との接点を意識できるようなエピソードを交えるようにしています。後々、必要に迫られて勉強し直すときに記憶を呼び戻すきっかっけになればと思っています。複雑な計算式が続いて板書が大変だったとか、見慣れない公式を使うといった曖昧な記憶でも、全部忘れているよりはよっぽどましです。。

研究者になろうと決心したのはいつ頃でしょうか?
 私が研究者になろうと真剣に考えたのは宮島先生の研究室に所属し、修士課程に入ってからでした。私が研究テーマを探していた頃、助手をしていた先生が研究のために夏休みにフランスに行くことになり、一緒に行って現地で研究を手伝ってくれる学生を探していたんです。その話を聞くなり、面白そうだと手を挙げたところ、他に適任者も現れず、フランス行きが決まりました。
photo 手を挙げた本音を言えば、単にフランスに行ってみたかっただけです。それでも今振り返るとフランス行きは私にとって大きな転機でした。現地での経験はとても貴重で、それは私に研究者になることを強く意識させるものでした。現地で出会う学生や研究者は誰もが研究のためにフランスに来るほどですから、当然モチベーションも高く、やる気にあふれています。しかも、2カ月という期限があるので必然的に研究漬けの毎日です。
 フランスという異国で、しかも高いモチベーションを持った研究者に囲まれて研究に没頭する日々を通して、集中して研究することの面白さに気付きました。手伝いでも十分面白いんだから自分の研究だったらどうなんだろうと考え、研究者の道を選びました。
 振り返ると、人生の転機ごとに人との出会いに恵まれていたと思います。物理好きな友人に出会い、面白い授業をされていた宮島先生の研究室に所属でき、フランスでは多くの研究者とともに日々を過ごせたなど、節目ごとに大事な人に助けられてきました。今の私があるのもこうした出会いのおかげと感謝しています。

 

 

1 仕組みを知りたくて カメラを分解してしまう
2 恩師の授業で物理の楽しさを知る
3 迷いがある時こそ集中すること
Profile 能崎幸雄 物理学科 准教授
専門はスピンダイナミクス、スピンエレクトロニクス。現在の研究テーマは、強磁性金属中において電子系やフォノン系と強く結合するスピン角運動量のダイナミクスの制御。基礎研究から実用を想定した応用研究まで幅広く展開している。1998年、博士(理学)を取得後に九州大学大学院システム情報科学研究院助手となり、2006年同大学准教授に就任。2010年に慶應義塾大学理工学部准教授に就任。現在に至る。
 
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