慶應義塾大学理工学部 広報誌
  新版 窮理図解  
03 三木則尚 「素人の発想、玄人の仕事」でMEMS研究を牽引する

「挫折という言葉は大嫌い」と言う、三木則尚さん。挫折は挫けて折れる、と書く。
たとえつまずいて挫けても、折れなければいい、というのが信念だ。
何にでも興味をもちチャレンジする精神と、持ち前の明るさで
研究者の道を突き進む三木さんは、楽しさをモットーに、自由な発想と、
積み重ねてきた確かな実績を携えて、MEMS研究の新たな地平を切り拓く。

 

大学ではロボットの研究を手がける

ゲスト写真 幼い頃から研究者になろうと思われていたのですか?
 いいえ(笑)。僕は兵庫県龍野市の生まれなのですが、実家は醤油づくりを営む老舗で、研究とはまったく縁のない環境で育ちました。幸運にも成績は良かったので、小学校のときからスパルタ教育で有名な進学塾に通い、中高一貫の進学校に進み、流されるままに東大工学部に入ったという感じです(笑)。勉強が好きだったというよりも、仲間がいたおかげで、競いながら楽しんで勉強に取り組むことができました。

勉強では苦労されなかったのですね?
 今の方がよっぽど苦労しています(笑)。僕は器用貧乏で、ズバ抜けてできるものはないけれど、なんでもそこそこできてしまう。そうしたわけで進路もなんとなく決めた感じでした。大学1~2年の頃は、生物や素粒子物理学に興味をもちましたが、ちょうど学部に進むころ、「バーチャルリアリティ」という新しい研究分野が脚光を浴びていて、面白そうだなと思って機械情報工学科への進学を決めたのです。その後はロボットに興味をもつようになり、4年生のゼミ配属では、ロボット研究の第一人者である三浦宏文先生・下山勲先生の研究室に入りました。
 当時はまだホンダのASIMOが発表される前で、2足歩行ロボットや人工知能の研究が行き詰まるなか、突破口を見つけようと、この研究室ではマイクロロボットの研究を手がけはじめたところでした。二足歩行ロボットの手本が人間なら、マイクロロボットの手本は昆虫だろうと、MEMSを使った昆虫型ロボットの研究を手がけることになったのです。
 小さいものを研究する面白さは、サイズによってきいてくる力が変わってくる点です。たとえば、モノの大きさが10分の1になると、表面積は100分の1になりますが、一方で、体積は1000分の1になる。つまり重力の影響がぐんと小さくなる。だからノミは自分の身長の50倍くらい高く飛ぶことが可能なんですね。そうしたことから、スケールにあったデザインが見えてくる。たとえば、飛行機の羽根と昆虫の羽根の違いというのは、スケールの違いからくるものといえます。ちなみに卒論は、生きた昆虫自身が操縦するロボットでした。ボールの上を昆虫が歩くと、ロボットがその動きに追随して動くというものです。

そこで生物への興味が生かされたわけですね。
 ええ。プログラムを書くのは苦手でスイス人の留学生に手伝ってもらいましたが、昆虫の勉強やモノづくりは楽しかったですね。そうやって興味の赴くままにやってきたのですが、その頃になってようやく将来について考えるようになりました。実家の家業を継ぐことや、メーカーへの就職も選択肢の1つでしたが、修士のとき、先生方のお供で海外の学会に参加する機会があり、先生が海外の研究者と握手をして気さくに話をしている様子を見て、「かっこいいなぁ」と思い、博士課程に進もうと(笑)。実際に、ドクターの生活はとても充実していました。
 当時、異業種交流会などに参加する機会が多かったのですが、さまざまな職種の人と話をするうち、それまでは長いものには巻かれよ、といった人生でしたが、人と違う道を進むのも悪くないなと思うようになりました。ほとんどの同期が就職する中、博士課程に進学したわけですが、それもよかったな、と。研究にも力が入るようになり、午前中から明け方まで研究して、カラスが鳴き出すころ、だいたい3時すぎですが、ようやく研究室を出るという毎日でした。でも、辛いということはまるでなくて、研究室までの行き帰りに、千駄木周辺の路地を散策したり、コンビニで発売されたばかりの漫画を誰よりも早く立ち読みしたり、日々楽しんでいましたね。このとき手がけていたのは、外部から磁界を与えて空を飛ぶ、1cm以下のマイクロヘリコプタです。飛ぶということを考えると、実は昆虫をまねて羽ばたくよりも、回転させたほうが効率がいいのです。世界で一番小さいヘリコプタじゃないでしょうか。
 また、この頃から、国内外で開催される国際学会に参加するようになり、若い研究者たちと親交を深めることができました。今でも彼らとの交流が続いており、情報交換できるいい仲間です。ついこの間も香港で開かれた国際学会で会ってきました。

 

 

1 大学ではロボットの 研究を手がける
2 MITの研究員になる
3 MEMSをベースに 自由な発想で研究に取り組む
profile 三木則尚 機械工学科 専任講師 MEMS(Microelectromechanical Systems:微小電気機械システム)技術をベースに、ICT、医療、環境分野へ幅広く研究を展開中。1974年兵庫県龍野市生まれ。2001年東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。2001年から2004年までマサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科ポスドク研究員、リサーチエンジニア。2004年より現職。高校時代はヘビーメタルに、大学時代は麻雀と釣りに、その後はゴルフにはまっている。
 
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