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「慶應義塾大学海外長期留学プログラム 報告書」

T.Kさん

慶應義塾大学理工学部卒業
University of Michigan, Ann Arbor
MSE in Aerospace Engineering(航空宇宙工学修士課程修了)

 私は、文部科学省長期海外留学制度を利用してアメリカ合衆国にありますミシガン大学航空宇宙工学専攻(University of Michigan, Ann Arbor, MSE in Aerospace Engineering)に2006年秋より約2年間留学しておりました。今回このような機会に恵まれたのでこちらに来てから肌で感じた、アメリカの教育制度,またそれに対しての自らの見識について触れたいと思います。また、後半では今後この留学制度を利用して留学しようと考えている学生のみなさんのために、微力ながらアドバイスをお送りしたいと思います。

アメリカへの留学と大学院の授業

 人生で初めての留学でした。よく映画に出てくるアメリカの自然に包まれたキャンパスで授業を受け、週末は遊び・・・などという憧れを抱きながら私の留学生活は始まりました。

 最初に大学での研究・授業について述べたいと思います。航空宇宙工学の本場のアメリカ合衆国でその専門分野の流体力学(CFD)、特にhypersonicの分野で世界的に有名な教授の下で研究に参加させていただきました。日本の大学院修士課程では研究のみ、といった環境ですが、対照的にアメリカの教育システムでは「専門分野での高度な知識がなければ研究はさせない」といった方針の下、教授から与えられる研究を行う以前に、最初の1年間ほどは大学院レベルのコースワークを一学期に3、4個こなす必要があり(留学生の場合は英語もほぼ必須)、各授業は日本の大学の授業の2倍である180分/週行われ、更に毎週約10〜15時間かかる課題がそれぞれの授業に出ます。履修する授業としては、私の場合、Aerospace Engineering専攻の中でもGas Dynamics(空気力学)の分野の授業を中心に履修していました。空気力学といっても圧縮性流体、粘性流体、乱流、CFD、分子性流体力学など、非常に細かく分野が分けられており、各授業ではその分野でのエキスパートである教授が「これでもか」というほどに深く掘り下げて分厚いテキストと共に講義を進めます。教科書に名前の出てくるような教授ばかりだったのでワクワクして毎回授業に臨んだのを覚えています。寝ている学生など一人もいません。常に質問が飛び交い、学生と教授とのやり取りが絶えません。日本での授業のやり方とのあまりの違いに最初は大変戸惑いました.その他に工学系の学生の場合,数学の授業も必須科目として課されます。それら全ての授業で宿題の量も半端ではなく、特に1年目は大体コンスタントに土曜日曜関係なく毎日10時間以上、課題に費やしていました。図書館は24時間開いており、深夜は無料タクシーなどのサービスもあります。夜中の1,2時くらいまでコンスタントに図書館にいたのですが、その時間でもテスト終了直後以外はいつも学生でにぎわっています。テスト、課題などが詰まってくると一週間ほぼ徹夜、といった時期もあり肉体的にかなりつらい時期もありましたが、自分が本当に心の底から学びたい分野でしたので苦ではありませんでした。今となっては懸命に純粋な気持ちで学問だけに打ち込めた時期で本当に貴重な思い出です。

教育の熱心さ

 日本と異なる教育システムとしてoffice hourというものが存在します。このシステムでは、教授がクラスを受講している学生のために、クラス以外に週に1、2回質問のための時間を設け、教授の部屋(オフィス)で学生の質問に答えるというものです。学生は教授のオフィスに出向き、講義や宿題、プロジェクトについて直接質問します(オフィスアワーに行かないと基本的に大学院レベルでの授業の宿題は完了しません)。この際、教授は質問に対し大変丁寧に、学生が完全に理解できるまで説明してくれます。僕の経験では、下手な質問でも教官が応答に嫌がる、ということはほとんどありませんでした。このようにオフィスアワーは、学生の理解を深めるために有効に使われています。また、教授にとってもオフィスアワーは学生がどのくらい自分の講義を理解しているのかを知る良い機会になっているようです。こういったオフィスアワー制度などを含めて、大学は研究機関という役割だけではなく、重要な教育機関であるということをこちらに来てから強く実感します(うわべの言葉だけでなく、実際に量をこなすことが要求される)。日本の大学は、研究機関としては多くの業績を残しているかもしれませんが、教育機関としては少しお粗末だと思います。特に、大学院教育ではそれが顕著であると感じました。現状私が知る限り、もし日本の大学院生が研究に詰まったら、その都度教科書、論文等を頼りに手探りで最初から何の当てもなく勉強する(わからない部分を引っ張ってくる)必要があります。大学院修士課程の2年間の大部分を研究に費やすことによって、その結果、自分の研究分野では見識を持てますが、そこを一歩離れたら同じような分野でも、まったく通じない学生が多いと思います。事実として、私自身学部時代、同じ研究室の仲間の発表を聞いてもほとんど理解できない状況でした。やはり、大学院こそ各分野のプロフェッショナルである教授、助教授陣同士、しっかりとした連携を組み、各々の専門分野を系統立てて学生にしっかりと教育し、その分野での卒業試験を行う程に、学生に広く深い基礎知識を築かせることが大切だと思います。

学問以外で

 毎週の課題で精一杯ではありましたが、2学期以降は週に1日程度余裕ができ、自分の時間が持てるようになりました。ただどこかへ遊びに出かけようとしても、東京、名古屋などにある日本の大学とは違って、大学の周りには遊ぶような場所はほとんどなく、主に大学の施設を使用してスケート・ヨガ・アメフト・ゴルフといった、日本ではなかなか行う機会のないスポーツに積極的に参加していました。また私自身野球、バスケットボールが大好きでしたので、日本人選手所属チームが地元のデトロイトタイガースと試合を行いにくる際にはデトロイトまで車で行きMLB観戦、また地元の強豪ピストンズのNBAの試合観戦等もしました。そしてなんといってもミシガン大学は大学アメフト全米有数の強豪チームを持っており、約10万人収容のスタジアムに土曜日に何度か試合観戦に訪れました。このスタジアムの迫力は日本にいる限り決して味わえないものでした。

留学前後での自身の変化

 留学以前と比較して、自分の考え方が最も変わったな、と感じる点は、自分の専門分野だけでなく、国際社会の政治、経済、様々な情勢に非常に興味を持つようになり、自然と毎日そういった話題に目を向けるようになったことです。各国からの留学生は本当に議論が好きで、深夜図書館などでの宿題の合間にも各国の政治状況や経済状況、また国際支援などについて意見交換を毎日(毎晩)のようにしていました。最初は戸惑いましたが、時が経つにつれて、自らも変化していく(議論が好きになっていく)その様子に本当に驚いていました。留学以前では全く考えられなかったことです。その結果、工学に対する見方が180度変わり、いかに各要素(人間,自然etc)間の繋がりが大事で、その中で学んできた知識がどれだけ世の中に役立てられるか、応用できるか、といった点を最も重視するようになりました。これらは口ではよく言われることですが、身をもってそれを実感できたのは留学してからです。この点に気がつくことができたのは本当に幸いで、以前と比較して、遙かに多くの選択肢、また考え方を持つことができるようになりました。結果、今後何かあってもその都度一喜一憂をせずに、「どっしりと」した観点から人生設計ができるのでは、と思っています。

日本に対して感じたこと

 留学を通じて日本に対して感じたことは、日本が経済大国といわれるほどに存在感がある、というのは未だ疑いのない事実ですがアメリカの社会に一度身を置いてみると、それとは裏腹に、あまりに日本人の存在感が薄い,ということです。ミシガン大学に限ると、留学生の割合の内、インド、中国、韓国などがそれぞれ15〜20%程度であるのに対して、日本人は約1〜3%といった数字です。これは本当に寂しいことで、日本人同士のネットワークが非常に小さいことにも繋がり、留学生、またこれから留学しようとしている学生が十分な情報を得ることができない状況です。そのため留学がものすごく敷居が高いもののように感じられてしまい(私自身もそうでした)挑戦を諦めてしまう、といった事態につながっているようです。日本にいるとこのようなことを実感しませんが、原因を考えてみると、やはり日本の世論は世界とは融合していない。といったことが挙げられると思います。特別に日本が世界と対立しているというわけではなく、なぜかお互いに分かり合えない、文化的、精神的なギャップを感じてしまいます。よく友達は、私の日本での生活習慣すべてを、不可解な営みのような目で見ています。一方で日本での私の周りの日本人は、私が過去にアメリカに住んでいたことを何か特別な環境にさらされているような目で見ます。ビジネスの関係になれば話は別かもしれませんが、一般の国民同士の感覚はこのようなものであると思います。こういったギャップを少なくして、もっと日本人が世界に出ていきやすい道を作っていくのも今後の留学後の人間の役割であると考えています。

就職など

 卒業生の就職状況ですが、さすがに航空宇宙工学専攻で有名な大学だけあって、アメリカ国籍(永住権も含む)を持っている知り合いのbachelor、masterの卒業生はみなアメリカ航空宇宙局(NASA)、BOEINGをはじめとする宇宙、軍事関連会社など、錚々たる名前の組織に就職していきます。逆にアメリカ国籍(グリーンカード)のない留学生などはこのような職業に就くことはほぼ不可能で、それぞれの国に帰国して同種の組織に行くか、アメリカに残って全く異なる分野に行く学生が一般的なようです。大まかですが私の印象ですと、国籍別にみて中国・韓国人などはそのままアカデミックな方面に進む、その他のアジア圏の学生はそのままアメリカで就職、日本・ヨーロッパ人などは国へ帰って就職する、というのが一般的のようです。

最後に

 楽しいことが大半を占めると思って始まった留学生活ですが、毎日が驚きと苦しみの連続でした。しかし、その「驚き」と「苦しみ」を今後もう経験できないだろう「財産」として捉えて「楽しさ」に置き換えれるかどうかが一番の留学生活の一番のカギであると思います。私の場合は更なる努力によってもっと置き換えることができたのかな、と今になって振り返っています。

 研究を進めるにあたっては、本当に教授、それからポスドク、ドクターの学生の方々にお世話になりました。彼らはみなアメリカの航空宇宙局、そして各国の宇宙、防衛関係の研究所などに将来仕事として携わっていく優秀な人間であり、その彼らとかけがえのない関係を築くことができたことが大きな一つの留学を通じての遺産だと思っております。今後自らもその方面の仕事に就き、宇宙、防衛関連という秘密事項の多い分野ではありますが、彼らと互いに連絡を取り合って、グローバルな方向からこれら分野での発展,安全などに努めていきたいと思います。

この奨学金を受け取った方に対してのアドバイスですが、

 留学に行く前の準備段階として、やはり自分の専門分野をできるだけ磨いていくことが重要かと思います。いきなり高度な学習をし、毎週大量の課題を与えられることになるので、万が一その分野に対し知見がほとんどない、といった状況ですとさすがにつらいものがあります。日本の大学の頃とは違い、最初は一緒に助け合うような知り合いもいないので、一人ですべてやる必要があります。それゆえに、そういった状況下でもスムーズにやり過ごせるようなある程度の知識は日本にいるうちに準備していくのがベストでしょう。また、やはり語学は本当に重要です。留学後は「学習」という意味での語学の勉強は忙しすぎて時間がなかなかとれないですが、それでも何とかやり過ごせてしまうので、語学学習が止まってしまう傾向にあるようです。この点を意識して留学前にできるだけ語学の能力を上げていくことも重要だと思います。本当に留学中は意識していないと語学学習はできないものです(留学仲間はみな強く同意見です)。

 初めてその語圏で生活する者にとって、大学院留学は勉強の内容が高度であり、最初は周りの会話についていけないことも多々あり、確かに精神的につらいことが多いです。ただやはりこの奨学金を頂けた、ということは,学力は当然のこと、それに耐えうる忍耐力、精神、またやる気を認められたということです。内容も非常に恵まれていると思いますので,集中して学問に取り組めるような環境を与えていただいていることにもなります.また国を代表している,といった意識は多少なりとも持つと思いますので、毎日適度な緊張感のなかで生活できると思います。結果として適当にやり過ごして、よい結果を残せない、といったわけには当然いかないので、他の日本人留学生よりと比較して自分の場合、研究、授業の合間に、課外活動、プロジェクト等、時間を見つけては参加して可能な限り様々なものを吸収できるよう努力をしていました。せっかくの留学の機会ですので、勉強だけでなく、周りとの結びつき、という意味で必ず将来の財産となるものを見つけてください。それは友人でもいいですし、お世話になった教授、また特定の団体の活動に参加する、何でもいいと思います。要は、「いかに将来、周りの人たちに貢献していけるような人間になることができるか」を常に考えながら行動していくことが結果として自分に最も価値のあるものを還元してくれるものであり、また最も大事だと今更ながら振り返っています。本当に個人の心構えで留学により得られる財産は大きく変わってしまうので,高い志を持って望んでください。

 

 私の感想、アドバイスは以上ですが、この留学を通じて本当に多くの出会い、また多くの支援を数え切れないほどの方々からいただきました。ここにお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。特に慶應国際センターの皆さんには留学が決まる前から今日に至るまで,再三にわたりお手数をおかけしましたことをお詫びいたします。皆さんの支援がなければこの留学生活は成り立ちませんでした。なんとかこの経験を世の中に少しずつ還元していけたら,と思っています。

 

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